第1回日本ギター音楽編曲コンクール報告
東京文化会館・小ホール 2005年7月24日(日)

本 選 結 果

受賞者

編曲作品

演奏者

グランプリ

青山 悟
ルーマニア民俗舞曲 BB6(バルトーク)

小川和隆

準グランプリ

渡辺宏幸
モルダウ(スメタナ)

金 庸太

聴衆賞

小山 勝
ラ・クンパルシータ(ロドリゲス)

小山 勝・秋山恵美子

審査員
伊東福雄(一次審査のみ)、江部賢一、尾尻雅弘(一次審査のみ)、小胎 剛、加藤繁雄、佐藤弘和、佐野正隆、竹内永和、
長野文憲、二橋潤一、濱田滋郎、福田進一、藤井敬吾、(50音順、敬称略)


日本ギター界は優秀な演奏家の台頭がめざましい。その要因は東京を中心に、一般のコンクール(東京国際ギターコンクール、スペインギター音楽コンクール等)、の他に幼児期から大学生までを対象とした「GLC学生ギターコンクール」、「ジュニア・ギターコンクール」など、幅広く修練の場があり、これらのコンクールが若手ギター演奏家の発掘に大きな一翼を担っている。しかしながらギターの為の新しい作品が日本から数多く生まれているかといえば疑問がある。以前は「武井賞」というギターの為の作曲コンクールがあり日本人による優れたギター作品を生みだしていたが、この賞もすでになくなり、新たな作曲コンクールの開催が待たれていた。日本ギター普及協会(名誉会長:濱田滋郎 会長:横内善秋)の主催するこのコンクールは下記のような特徴がある。

  1. 隔年ごとに「編曲コンクール」と「作曲コンクール」が開催されること。編曲コンクールは世界にあるのかな?
  2. 予め12曲(程度?)の入賞曲が選出され、これらに対して楽譜の出版(付録CD)の発売が保証される。それにともない入賞者には印税が支払われる。
  3. 上記の選ばれた12曲の入賞作品をプロギタリストの演奏により最終審査され、グランプリ・準グランプリが決定される。また聴衆の投票による聴衆賞というユニークな賞も用意されている。

武満徹の作品のように世界に通用する作品を発掘すべくこのようなコンクールが開催されたことに対して素直に喜びたい。またこれからのギタ−界にとって重要な位置を占めるコンクールになることと思う。

本選会で演奏された入賞曲 

[ソロ]

マルティーニ/鈴木勝:愛の喜び(演奏:佐藤純一)

モンポー/篠原正志:貴女の上にはただ花ばかり(演奏:鈴木豊)

ストラビンスキー/青山悟:5本の指(演奏:藤元高輝)

ピポー/野村泰則:コプレオス(演奏:益田正洋)

いずみたく/植田喜紀:見上げてごらん夜の星を(演奏:服部文厚)

橋本睦編曲:3つの日本の歌〜蘇州夜曲 長崎の鐘が鳴る 東京キッド〜(演奏:小山勝)

スメタナ/渡辺宏幸:モルダウ(演奏:金庸太)

バルトーク/青山悟:ルーマニア民俗舞曲 BB68(演奏:小川和隆)

[デュオ]

Curtis/条谷秀夫:帰れソレントへ(演奏:フリーバーズ 伊東福雄 篠原正志)

マトスロドリゲス/小山勝:ラ クンパルシータ(演奏:小山勝 秋山恵美子)

トリオ]

ベルリオーズ/鈴木勝:オラトリオ 「キリストの幼時」 op.25より(演奏:フリーバーズ 伊東福雄 篠原正志+鈴木豊)

中田章/平野勇:早春賦 (F.ソルのスタイル)による(演奏:平野勇 佐藤洋一 薮田健吾)

コンクールをふりかえって

 弟1回目となるギター音楽編曲コンクールは1月8日に応募が締め切られ、36曲の作品の応募があった。その中から第一次審査で13名の審査員により12曲の入賞曲が決定された。そしてその中からグランプリを決めるべく、7月24日東京文化会館小ホールで最終審査が行なわれ、最終結果が上記のように決定した。

入賞曲は、どの曲もさすがに良く編曲されており、今後これらの曲が出版されればギタリストにとって格好のレパートリーになることは間違いないだろう。ただ、かなりの演奏技術とセンスが要求されることも覚悟する必要があると思う。グランプリを獲得した青山悟氏の編曲作品「ルーマニア民俗舞曲」はたいそう演奏効果の高い作品、選曲した着眼点が良かったと思った。また演奏を受け持った小川和隆氏の好演も強く印象に残った。準グランプリを獲得した渡辺宏幸は入賞者の中で最年少の大学生、彼の編曲作品「モルダウ」はオーケストラの作品として余りにも有名、これを素直に編曲するのは不可能。有名な主題と、中間部に表れる〜農民の婚礼〜の舞曲の部分を引用して序奏から彼独自の和声と形式に置き換え、極めてオリジナル性の高い音楽に仕上げていたのが評価されたのかも知れない。そしてやはり演奏を受け持った金 庸太氏の極めて安定感のある、そしてギター作品としての音楽性豊かな演奏も見事だった。また、聴衆の投票による聴衆賞(審査員は参加しない)というユニークな賞を獲得した小山 勝氏の二重奏編曲作品「ラ・クンパルシータ」は誰にでも受け入れられる聴きやすさ、ノリの良いリズムそして編曲者自身のノリに乗った気持ちの良い演奏が聴衆の心をとらえたようだ。このような曲も大変貴重なレパートリーとなるだろう。また、審査員と違った目で曲をとらえることも大切と実感した。
さらに特筆したいのは、前出の演奏者以外のギタリストの演奏も大いに賞賛されるべき、素晴らしい熱演であったことも付け加えたい。

審査の間に行なわれたコンサートの部でも10弦ギターで鮮やかなスカルラッティの「ソナタ」3曲の演奏を披露した藤元高輝君(現在中学1年生)、コンクールの部門でも素晴らしい演奏をした小川和隆氏の自編による17世紀のリュート音楽「4つのスコッチューン」、故、芳志戸幹雄編に小川氏が10弦用に手を加えた「聖母マリア頌歌集」の演奏も強く印象に残った。さらにフリーバーズの自然で美しい音、マリア・デュオ(菅原しのぶ・藤森洋子)の情感溢れる演奏、北海道より参加のトリオ(平野勇・佐藤洋美・藪田健吾)による「森の熊さん」「ドラエモンのうた」は音楽の楽しさを充分堪能させてくれた。

終わりに問題点も今後の発展のため記しておきたい。
今回が第一回目ということもあり進行面での不手際が目立った。審査員が席に着かないうちに後半が始まってしまい演奏者の佐藤純一氏が最後に再演奏するハプニングがあった(佐藤氏は動揺することなく再演でも素晴らしい演奏をしてくれた)。またコンクールと、審査の間に行われたコンサートの時間が長時間にわたり終了したのが22時近くまでかかってしまった。編曲コンクールでありながら編曲者のプロフィールや紹介がなかった、等。

いずれにしても第一回目ということもあり、次回からこの経験を活かし更なる発展とギター界にとって重要な役割を担っていくコンクールとして成長していって欲しいと思った。